【読む見る】凶笑面

 今日はちょっと趣向を変えて・・・
 リスペクトすることの大きいミステリ作家の北森鴻氏が亡くなられまして。
 48歳。やはり若すぎます。
 『狂乱廿四孝』で鮎川哲也賞を取り95年にデビュー。98年の『花の下にて春死なむ』で推理協会賞(短編)と、高い評価を受ける中で、僕の中ではやはり連作短編の名手だなと言うイメージの作家でした。それも、ただ登場人物が同じと言うだけの連作短編ではなく、一種の長編としても読めるという構成力にただただ驚きでした。

凶笑面―蓮丈那智フィールドファイル〈1〉 (新潮エンターテインメント倶楽部SS)

 『花の下~』で登場したバー「香菜里屋」シリーズや、雅蘭堂シリーズ、長編では旗師・冬狐堂シリーズと、様々なシリーズを持つ中でも、僕が一番好きなのが民俗学ミステリー・蓮丈那智シリーズです。このシリーズは、「香菜里屋」シリーズや他の連作短編と違い、一編一編の独立性が非常に高いという、北森短編としては異色の部類に入ります。
 そもそも、『民俗学』というテーマとミステリは、金田一耕助の昔から、相性がいいモノと決まっていまして。伝統や風習といった表面に隠された「真実」は、ミステリの材料としても非常に食指を動かされるモノといえるかと思います。そういった面からも、表題作「凶笑面」を含む五題の短編は、どこを切っても満足のできる良質のエンターテイメントになっていました。特に、ミステリ的な謎解きと、民俗学的な謎解きが織りなす二重螺旋とも言える構造は、読了後にきれいにつながる一本の美しい線を導き出す方程式に見えてくるようでした。

 蓮丈那智シリーズはこのほかに、『蝕身仏』、『写楽・考』と2作出ており、いずれも質のいい短編集となっています。
 残念ながら、新作がもう読めないという事実に、ただただ残念が募るばかりです。